SCA CVA for Cuppers/ Evolved Q Grader について
以下につきまして、極力、現時点(2025.9)で公開されている事実をメインに記述しましたが、一部に私見、憶測が含まれていることをあらかじめご了承ください。また、CVA for Cuppersの講義、テストの具体的内容、 評価方法などの詳細はこちらには書くことはできないことをあらかじめご了承ください。
8月、2日間ほど臨時休業をいただき、SCAJ主催のSCA公認 CVA for Cuppersを受講、受験してきました。
現在業界内の一部で話題になっているSCA(Specialty Coffee Association)が主導する新しいスペシャルティコーヒーの評価コンセプト、CVA(Coffee Value Assessment)。
スペシャルティコーヒーファンのみなさんはご存知でしょうか。
かつてのSCAA(Specialty Coffee Association of America)が中心に開発したスペシャルティコーヒーの品質評価をするためのカッピングフォーム(コーヒーの品質評価フォーマット)が完成されてからすでに20年以上が経過し、当時のスペシャルティコーヒーに対する価値観の多様化、価値、スペック、生産国でのさまざまな取り組み、お客様の味覚評価に対する進化、多様性など、そして、スペシャルティコーヒー自体の進化の過程で、点数に重きをおいた評価フォーマットだけでは十分な評価ができない可能性が出てきたことから、SCA(Specialty Coffee Associstion )では2020年頃から各方面へのリサーチを開始し、その成果として新しい評価コンセプト、フォーマットを設計、開発しました。
現在のところ、まだベータ版のフォーマットもあるのですが、開発プロセスでの各フォーマットの改良も進み、現段階での完成形として、CVAの正式なお披露目となり、啓蒙活動のリーダーを担う方々(SCA認定CVAトレーナー)の育成も進みつつあることから、スペシャルティコーヒーの評価に関し、一定の経験、評価スキルを持った方を対象に、SCAの修了証を発行することを前提としたセミナー + 試験を行うようになりました。(CVA for Cuppers)
これまでは、味覚的な品質を客観的に評価した各項目を点数化し、最終的に100点満点中何点なのかという指標で主にコーヒー豆の素材を品質評価してきました。(一定レベル以上の正確な客観評価をするためには、相当の条件の下、勉強と反復した訓練、経験が必要です。)
一方CVAでは主観評価を取り入れ、さらに品質評価にとどまらず、私の感覚ではコーヒーという「商品」をより多面的(多方向から)に光を投射することで、より立体的に、リアルに形状(性状、形状)を明らかにする(モデリングする)というイメージです。
よりユーザーの立場に近い、マーケティング的要素の評価が加味されたと言ってもいいかもしれません。
CVAフォーマットの中でも、Affective Formは8項目、 項目ごとに9点満点の点数化が前提とされ(しかし、フォーマット中では各項目を合計した総合点を書き入れる箇所はありません)、別途ある関数計算することで、100点満点での点数を計算することが可能です。(Affective Score Calculator)
あえて、100点満点に換算するのに関数計算が必要とされるなど(先に紹介したSCA Webサイト内のCalculatorや他のCVAアプリなどで簡単に計算できますが) 、評価者を点数から視点をずらす様に工夫されている感じもします。
下記のAffective FormはCVA評価Formの一つであり、4 + 1種類のフォーマットで評価します。(5種のうち1種はCombined Formで、AffectiveとDescriptiveの各Formを合わせたものであり、これら二つを独立して使用する場合、同時には使用しない)
以下は、2種のFormを抜粋。
現在のSCAJのカッピングフォームやスペシャルティコーヒー豆の国際的な品質コンペティションであるCup of ExcellenceのカッピングフォームもベースはかつてのSCAAのものであり、それぞれの目的により合致するよう改良されたものです。
SCAJのフォームは、COEのものをさらに各評価要素を時間経過(サンプルの温度変化)により人が感知しやすい順番に入れ替えたものになっています。(評価項目はCOEフォームと同じ)例えばSCAJフォームで慣れた方が、COEの審査をしたとしても、COEフォームに違和感を感じることはほとんどないでしょう。
評価対象になるコーヒーの品質レベルや目的により、より適したフォーマットが必要になるということだと思います。
また、こういった評価フォームはコーヒー生産者とカスタマーの共通言語として、特に品質を高めていくプロセスで非常に重要な役割を果たしており、これからもそれは変わらないでしょう。(現在のところ、生産国、消費国の多くの段階で、おおよそSCAまたはCOEのFormを使用し、カッピングが行われている。)
CVA が今後資格として深く関連してくるのは、SCAカッピングフォームを使用してきたコーヒー評価の国際資格としてCQIが運営してきたQ Graderというライセンスです。
Q GraderはCQIから切り離され、2025年 9月末日をもって、SCAで一元して管理、主宰していくアナウンスもされています。Q Grade Systemは、CQIからSCAへ移管されるということですね。
CQIはQ Grade System以外の部分は変わることなく、これからも活動していくとのことです。
その昔 2006年頃に遡りますが、当時はSCAA Certified Cupping Judge(SCAA認定カップ審査員資格/ 当時はSCAの前身SCAA アメリカスペシャルティコーヒー協会があった。今はSCAE ヨーロッパスペシャルティコーヒー協会などと統合されSCAとなっている)という資格があり、私はまだ開業前でしたが、当時ロサンゼルス郊外ロングビーチにあった当時のSCAA 本部で資格取得に臨みました。
その後、ちょうどQ Grader免許とSCAA Certified Cupping Judge資格の統合があり、SCAA Certified Cupping Judge資格者向けの、Q Graderになるための追加試験を東京ビッグサイトでの展示会SCAJでテッド・リングル氏(SCAA元会長であり、CQI創設者、当時の会長)来日のもと受験した記憶があります。
歴史を辿ると、Q GraderもSCAA Certified Cupping Judgeの評価メソッド がベースになっていたと思います。
そして、今回SCAから案内があり、Q Grader 資格保持者または更新していないが、資格取得したことがある者は2025年12月末までにSCA 公認トレーナーによるCVA for Cuppersを受講し、所定のテストに合格すると新しいEvolved Q Grader資格が与えられるということでした。
これをSCAではFast Track制度と呼んでいますが、これを適応できるのは前述したアラビカ、ロブスタの各Q Grader資格者、資格経験者の他に、SCA Sensory Skills Professional Certificate Holder、Cup of Excellence National Judge となっています。
CVAはSCAが運営することになる新しいEvolved Q Graderライセンスの評価コンセプトになっていくことを示唆していると思います。
(この措置は2025年12月末までの特例であり、2026年1月以降はこれまでのQ Graderと同様に、6日間にわたるEvolved Q Graderの試験を受験し、CQI Q Graderはコーヒーに関する一般知識を問われる筆記テスト、グリーングレーディングを含む主に味覚感知に関するスキルをメインに22科目でしたが、これら全てに合格する必要があります。)
Evolved Q Graderとは、進化したQ Graderという意味合いになるでしょうか。
そこで、8月にSCAJが開催した(講師、内容、メソッドはSCAトレーナーのもと行ったSCA公認の)CVA for Cuppersを今回受講しに行ってきたわけです。
CVAの詳細につきましては、SCAから各種STANDARDのペーパーが複数発行・情報公開されていますし、現段階での評価フォーマットも公開されていますので、ご興味のおありの方はこれらのリンクをご参照ください。(多言語に翻訳されていますが、日本語版は残念ながらありません。)
では国際的なスペシャルティコーヒー豆の品評会を主催するACE (Cup of Excellence®の主催団体)はCVAのフォーマットに移行していくのでしょうか。私の個人的な感触ですが、少なくともしばらくの間は現行のカッピングフォームを使っていくことになるのではないでしょうか。COEの場合は開催国ごとのTop of topを対象にした完全に味覚的なパフォーマンスを対象とした品質コンペティションであり、最終的にはオークションボードでの落札が前提になりますから、順位づけのための客観的な点数化は必要になってくるだろうと思います。
ただし、ACEのエグゼクティブ Erwin Mierich氏とSCA CEO Yannis Apostolopoulos氏との間での提携発表もあり、COEの評価にCVAの一部を取り込めないかの検討、研究は相互に今後も進められていくようです。
私見ですが、COEのカッピングフォームはコンペティション用として、世界的なTop Cupperの方たちが先導し、長い年月をかけ熟成されてきたこともあり、COEというコンセプトを前提とすれば使いやすいですし、シンプルで非常に完成度が高いフォーマットであると言えると思います。
どんなものでもそうですが、こういった熟成され、完成度の高いものに手を加える際には、多くのテスト、検証が必要で、慎重にも慎重を重ねることになるでしょう。こういったものに下手に手を加えれば、パフォーマンスが逆に落ちてしまうこともあるからです。
簡単ではないと思われますが、もしもCOEのフォーマットにCVAの評価要素を取り込める部分があり、うまく統合できれば、より完成度は上がっていくかもしれません。
そして、つい先日ビッグサイトで開催されたSCAJ2025において、SCA会長 Apostolopoulos氏とSCAJ会長の加藤氏との間で、MoUが締結されました。
SCAJとして、CVA、Qシステムへのアクセスをよりしやすくすること、スペシャルティコーヒーに対する価値認識を共有することなどが宣言されたようです。
いづれにせよ、2025年はこれまでにないスペシャルティコーヒーの評価フォーマット、コンセプトに変更が行われつつあるという節目にいるということは間違いなさそうです。
おいしいコーヒーをご提供するには、どういう形であれ、コーヒーの評価をすることが大切になってきます。
その基準、範囲をどこに置くのか、置くことができるのか。
弊店としてもまだまだ道半ばですが、考え続けていきたいと思います。